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2020年12月 1日 (火)

言葉じゃないのよ政治は、アッ・ハー

 菅首相の国会答弁がすごいことになっている。一部では評判なのだが、国民の大多数はたいして関心がないようだ。

 "言葉”で勝負できない政治家って"権謀術策”で勝負するのかと思いきや、切れ者という印象もない。誰かが言った「壊れたレコード」のような? はてさて、プーチンや習近平相手に「壊れたレコード」氏はこれからどう渡り合うつもりなのだろうか。

 で、コラムニストの小田嶋隆氏へのインタビュー記事をご紹介。この人のコラムは切り口が独特でハットすることが多いのだけど、今回もなるほどといたく感心した。

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小田嶋隆さんが読む首相の「恐怖政治断行」宣言 「小さな部屋の王様」の恫喝

毎日新聞 202011300500

 「説明できることと、できないことってあるんじゃないでしょうか」。これは1026日、NHKの報道番組「ニュースウオッチ9」に出演した際の、菅義偉首相の発言だ。日本学術会議の任命拒否問題を巡り、キャスターから「説明を求める国民の声もある」と振られると語気を強めて反論してみせたのだが、「説明できない」とは一体どういうことなのか。コラムニストの小田嶋隆さんは「一種の恫喝(どうかつ)」と語り、そこに菅政治の本質を見いだす。【金志尚/統合デジタル取材センター】

「『君たちの知らないところで事を進める』と言っているのと一緒」

 ――NHK番組での発言をどう見ていますか。

 ◆その直後に手でパンと机をたたきましたよね。テレビに映っているにもかかわらず、ああいう態度を取ってしまうのは、冷静な人間ではないということがまず言えると思います。

 それと、あの発言は一種の恫喝です。あらゆるものに対して説明責任があり、全て言葉と理性で説明がつくという建前の中で、民主主義や法治主義は成り立っています。しかし、「説明できないことがある」と言うのは「俺たちは君たちの知らないところで事を進めるんだ」と言っているのと一緒で、民主的手続きを踏みにじることに他ならない。これはとんでもない発言です。全国に流れる公共放送で首相が言ったことはもっと特筆すべきでしょう。「俺たちは恐怖政治を断行するよ」と言っちゃったわけですから。図らずもそうした体質が表れたわけです。馬脚を現したと言えます。

 ――国会でも「回答を差し控える」などと説明を拒む場面が目立ちました。

 ◆「人事のことなので差し控える」と言いますが、理屈になっていません。それと、差し控えるというのは、「答えは持っているけれど、教えない」ということですよね。私はとても不思議な言い方だと思います。「それは教えてやんないよ」と上から言っているわけですからね。菅さんは、あれが謙虚な言い方だと思っているんでしょうか。

「言葉の引き出しが少なく、中身がない。浅薄」

 ――学術会議の「偏り」を強調するなど、国会ではパターン化された答弁が多かったです。結果的に質問と全くかみ合わない場面が続出しました。

 ◆「質問がこう来たから、こうずらそう」という戦略に基づいたものではなく、それしか言えない。自分が覚えている限りのことを言っているだけのように映りました。

 学術会議の任命拒否問題に関して、菅さんは「総合的・俯瞰(ふかん)的」という言葉をよく使いますが、そもそも滑稽(こっけい)な話です。総合的・俯瞰的な見地から提言するのが学術会議の役割ですから。政府に大所高所からいろいろ言ってくれるからこそ価値があるのであって、それを政府が「総合的・俯瞰的に判断して任命を拒否する」と言うのは筋違いも甚だしい。学術会議の役割を理解していないに等しい言葉です。

 事実としては、政府に苦言を呈する人を外すことで、学術会議に対してにらみをきかせたかったということだと思いますが、それを言っちゃうとシャレにもならない。だから違う言い方を探っているんでしょうが、「多様性」という言葉をやたらと持ち出すことも含めて、言葉の引き出しが少なく、中身がない。浅薄です。

「女性に優位に立たれると我慢できない本性」

 あと、女性議員とのやり取りも気になりますね。参院予算委では蓮舫さんとの質疑応答で、感情的になってうまくしゃべれなくなっている感じが露骨になっていました。やっぱり女性に優位に立たれるというか、やり込められると我慢できない本性みたいなものも見えます。

 ――官房長官時代は「鉄壁」などと答弁の安定さを評価する声がありました。

 ◆全然、鉄壁とは違うと思います。官房長官の頃は結局、記者クラブという、すごく狭い世界を制圧していただけですよね。(在任した)約8年間、記者をなめていたと思います。記者なんて恫喝すればいいんだと。官房長官というのは、結局、ごく小さな部屋の王様だったと思う。実際、子飼いの記者たちは黙っていたかもしれませんが、総理大臣になると野党の議員は黙っていませんから。それで彼は言葉に詰まってしまっている。

 その一方で、原稿の棒読みではない発言をする度に墓穴を掘っている印象もあります。先日のNHKでの発言もそうですし、報道各社とのグループインタビュー(109日)で飛び出した「(学術会議の会員候補の)名簿を見ていない」という発言もそう。私は、じきに致命的な失言をしてしまうのではないかと感じています。

「言葉を生でしゃべる能力が不足しているのが安倍さんと菅さん」

 ――当意即妙な受け答えや答弁能力の欠如を露呈してしまっていると。

 ◆言葉を生でしゃべる能力というものが政治家には一番不可欠です。例えば英国のボリス・ジョンソン首相。新型コロナウイルス感染で入院しましたが、退院後のスピーチは見事でした。私は彼のことを軽薄なヤツだと思っていましたが、いざとなれば心を打つ演説ができるわけです。

 日本にもそれなりに話せる議員は多いはずですが、その能力が飛び抜けて不足している議員が2人います。(前首相の)安倍晋三さんと菅さんです。安倍さんも前代未聞といっていいほど、言葉の貧しい政治家でした。ところが、菅さんはそれ以上です。

 ――11月の衆参予算委では、秘書官が後ろで答弁書を書いて菅さんに渡す光景も見られました。

 ◆みっともない。よくやりますね、あんなことをね。外交に出たとき、例えば(ロシア大統領の)プーチンさんみたいな人と対峙(たいじ)したときにちゃんとできるのかというのは、すごく心配ですね。外交はごまかしが利かないですからね。プーチンさんは原稿を棒読みする人を露骨にあざ笑うみたいなことをするわけじゃないですか。(ドイツ首相の)メルケルさんなんかは、生の言葉で話すことを大切にしていますが、それに対して菅さんが原稿を読んだりすれば、「何だ?」という顔をするんじゃないでしょうか。

最悪な「私が安倍さんを懐かしがっていること」

 ――安倍さんの後継に誰が就くか分からなかった2年前、小田嶋さんはコラムに「最悪の予想は、私が安倍さんを懐かしがっていることだ」と書きました。今、懐かしいですか。

 ◆そう思っていますね(苦笑)。今さら持ち上げるわけではありませんが、安倍さんは育ちがいいし、あらかじめ政治家として「いいポジション」に座っていますから、人を踏みつけて上まで上り詰めたわけではない。だからこそなのかもしれませんが、あの人の一番まずかったのは身内びいき。彼は今も非を認めていませんが、自分の奥さんや友達を優遇するために不正を働き、公文書まで改ざんさせたと私は思っています。これらは当然許されないことですが、ただ、それは自分の権力を拡大するためとか、いろいろな人間を踏みにじるとか、そういうことでは必ずしもなかった気がしています。

 ところが菅さんの場合、例えばふるさと納税に異を唱えた官僚を更迭しています。あそこまで上り詰めるためにどれだけの人を踏み潰したのかを考えると、おっかなさを感じる。自分にとって邪魔な人間を徹底的に潰す、そういうニヒルな怖さを感じるわけです。いざとなったら、どんな手でも使うという不気味さがある。安倍さんは自分が直接誰かを脅すことはなかったと思うし、そういう度胸もなかったでしょう。でも菅さんは「人は恫喝したら必ず言うことを聞く」とか「敵は必ず潰す」という人間観を持っている。そういう意味では、胆力とか度胸は安倍さんよりずっとあるとは思いますが、それだけにえげつないし、おっかない。

「『インテリを攻撃すれば受けるぞ』という選挙戦術」

 ――改めてですが、学術会議の任命拒否問題についてはどう考えますか。

 ◆これは安倍さんとも通じますが、インテリ嫌いが濃厚にあります。昭和の時代、政治家は東京大出身者が多かった。それが良いとは一概に言えませんが、優秀な官僚がいて、優秀な閣僚がいて、馬力のある総理大臣がいるという構図があったと思います。ところが今は反学歴主義みたいなものが行き過ぎている気がする。「学歴は万能じゃないぞ」という考えまではいいですが、学歴があるヤツは蹴散らせ、となってしまっている。

 ただ、これは菅さん自身がそう思っているだけではなく、「インテリを攻撃すれば受けるぞ」という選挙戦術も背景にあると感じています。インテリと役人をいじめておけば、民衆の支持を得られるという肌感覚を持っているんだと思う。学術会議に手を突っ込んだのも、半分はそういうところが関係しているのではないか。

 国民の中にも「学者は上から目線だ」「学者のくせに偉そうにしやがって」という批判が結構あります。世論調査でも、任命拒否を「問題ではない」と感じている人が5割近くいる。こうした意見に菅さんが救われています。だから学術会議の新会員候補を任命しなかったのは菅さんの問題では当然あるんですが、それを許容している国民の問題でもあります。

おだじま・たかし

 1956年東京都生まれ。食品メーカー勤務などを経て文筆業を開始。「ア・ピース・オブ・警句」「小田嶋隆のコラムの切り口」「日本語を、取り戻す。」など著書多数。新著に10年分のツイートをまとめた「災間の唄」。

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