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2024年4月 4日 (木)

ウェス・アンダーソン監督作品 "アステロイド・シティ"

 この人の映画は”天才マックスの世界”を見たのが最初で、それ以降の作品は大体見ている。今度の作品も結構楽しめた。

 「粗筋はどうなのよ」と言われても、ストーリー自体にあまり意味はないというか、見終えても説明できるほどにはならなかった。よくこうしたオタクのような映画を作り続けられるものだと、ただ感心する。固定客がいるので制作費は回収できているのだろうけど。

 主役は常連のジェイソン・シュワルツマンとスカーレット・ヨハンセン。今回は脇を固める俳優陣が凄いことになっている。エドワード・ノートン、エイドリアン・プロディ、スティーブ・カレル、マット・ディロン、ウィレム・デフォー、ジェフリー・ライト、ティルダ・スウィントン、まだまだいる・・・トム・ハンクスまで。皆さん主役級だ。

 オールスター脇役の皆さん方だが、いろんなシーンでちょこちょこと顔をだしている。いったいどうやって撮影のスケジュール調整したのだろうね。ギャラは高いし、忙しい人達ばかりだろうから。

 全編色彩が独特で、エンドクレジットを見るとコダックフィルムで撮影されている。深い意味は考えないで、素直に楽しむのが吉だ。

2024年2月24日 (土)

ドキュメンタリー映画 "The 1619 Project"

 Netflixなどのアメリカ資本のネットメディアサービスはなかなかに優れたドキュメンタリー映画を配信している。

 なかでもアメリカ社会における黒人問題を扱った番組は充実している。”The 1619 Project”もその一つで、ニューヨークタイムズのプロジェクト記事を現地に取材して映画化したもの。執筆陣の一人であり、ピュリッツァー賞受賞者でもあるNikole Hannah jonesがこの映画の案内役となっている。

 タイトルにある"1619"とはアフリカ大陸から連行されてきた黒人がアメリカ本土に初上陸した年を指す。

 本として出版もされていて、その本を公立校の教科書に採用したり、反対に図書館の蔵書から追放するべきだと、左右両者から論争の的になったとのことだ。

 この映画を見て知ったのだが、アメリカの開拓初期には白人の奴隷が存在し、黒人奴隷と一緒に奴隷主に対して反乱を起こした歴史があるそうだ。奴隷を表す英語のスレイブはスラブ人のスラブにその語源があるそうだ。

 ずっと不思議に思っていたことなのだが、スペイン語だとムラートやメスティーソ、フランス語ではクレオールなど、黒人や先住民との混血を表す表現があるのだが、英語表現では一般化されたものがない。オバマは日本人からみればハーフなのに「黒人」初の大統領ということになっている。

 どうもその大きな一因にかつての法律があるようだ。その法によると「一滴でも黒人奴隷の血が入っている者は黒人奴隷と規定される。」なぜかと言えば、奴隷所有者と奴隷との間にできた婚外子に相続権を与えないためだ。「黒人奴隷には法的権利がないので、混血児を黒人奴隷と規定すれば財産相続からその者を排除できる。・・・」 そういう理屈でいくとケビン・コスナーもジョニー・デップもアメリカ先住インディアンということになってしまう。と言うこと以上に大概の人はネアンデルタール人ということになってしまう。

 同じ植民者でもスペイン人は南米で現地化していき、メキシコではメスティーソが社会の多数派にさえなっている。それに比べてアングロサクソンはどうにも偏狭な人たちのように思えてくる。

The 1619 Projectの公式ウェブサイトはこちら 

2024年2月 6日 (火)

ドイツ映画 “白いリボン”を久しぶりに視聴

 2009年にカンヌでパルム・ドールを受賞した作品。監督はミヒャエル・ハネケ。

 私の生涯ベストテンに入れている作品なのでもう一度見たいと思っていたのだが、ネット配信は途切れたままになっていた。それがアマゾンプライムで新着になっているのを発見した。

 視聴してみるとオーディオ言語がDeutschとされているのに、実際のセリフはフランス語だ。まるでタチの悪い冗談のようで、とても視聴ができたものじゃない。見るのはあきらめてしまった。

 ところが最近になってHuluにお試し加入してみたところ、この作品がラインアップされている。恐る恐る見始めると、セリフはちゃんとしたドイツ語だ。Huluに感謝しなくてはいけない。(アマゾンがいい加減すぎるだけなのだが)

 時は第一次世界大戦直前、北ドイツ(当時はプロイセン)にある農村が舞台となっている。大地主である貴族に支配されているその村で不可解な事件が次々と起きていく。村の教師であった人物が語り部となって当時の事件を回想していくことで物語は進んで行く。

 子役達の自然な演技も良いのだ、何と言ってもモノクロの映像が素晴らしい。衣装や背景、小物類にも目配りが行き届いていて、視聴するにつれてその時代にその村の一員になって一部始終を目撃していくような気分になっていく。

 主人公に感情移入していくという経験は良くあるが、映画が描く世界に深く入り込んでいくことができるということはそうそうない。紛れもない傑作だ。

2024年1月23日 (火)

ドキュメンタリー映画 "パレスチナ 1948・NAKBA"

 タイトルにある「1948」はイスラエル建国の年、「NAKBA」はアラブ語で「大惨事」を意味する。パレスチナ難民にとってこの二つは結びつく。

 監督した広河隆一氏はイスラエルの農業共同体であるキブツに暮らした経験を持つ。その時キブツ近くで集落の廃墟を見つける。そのことに疑問を抱いた同氏がその集落の歴史を追い始めることになる。以来イスラエルとパレスチナ双方を行き来しながら永年にわたり取材を続けてきた。その記録を集大成したものがこの映画だ。公開は2008年。

 ドキュメンタリー映画は結構な数を見てきたつもりだが、パレスチナ問題を扱ったものを視聴するのはほとんど初めての経験。問題の大きさに比べて、まとめられた映像資料を見られる機会があまりにも少ない。そんな中で日本人がここまで問題を掘り下げ、これだけのドキュメンタリー映画を作り得たのは驚きだ。

 この映画、ただパレスチナ側だけを取材しているわけではない。広河氏はイスラエル側の平和運動にも直接参加した経験を持ち、イスラエル人の歴史学者、元軍人などにも幅広く取材している。

 パレスチナ人の難民のことをイスラエルとアラブ諸国が戦争を始めたことで、「戦火を逃れるために一時避難している人達」と理解しているとしたら、それは大きな間違いだ。この映画を見ればそのことが事実としてわかるようになる。

 パレスチナ問題の事の始まりを知っておかないと、問題の全容はとうてい見えてこない。この映画はその取り掛かりとしての役割を充分に果たしているように思える。

 この映画、U-NEXTで現在配信中。お試し加入すれば視聴できる。

 製作者の広河氏は性加害を行ったことで告発され、現在係争中だ。経過概要はこちら

2023年9月24日 (日)

アイスランド映画 ”たちあがる女”

 女性主人公は環境保護運動の活動家なのだが、組織に属しないローンウルフ。送電線を破壊するシーンで物語の幕があける。それも細部を丁寧に描写していくので、鮮やかな手口に「なるほど、こうして切断するものなのか。」とおもわず感心してしまう。

 単独でこういうことをする人は社会から孤立しているのが相場なのだが、主人公は合唱団の指導者として、普通の市民生活を送っている(ン?)。

 有名絵画にペンキをかけるとか、フェンスを破って工場敷地に侵入するとか、過激な環境保護運動のことをニュースで時々見聞きするのだが、この映画の破壊活動はちょっとその上。どう考えても100%の犯罪。

 で、荒野の中を警察に追われることになる。背景となるアイスランドの自然が興味深い。ツンドラあり氷河あり。

 物語の後半、そうした追いつ追われつの活劇に、主人公の表の顔である私生活がからんでくる。以前から難民の子供を養子にむかえようとしていたのだ。そのことがいよいよ実現することになり、破壊行動の総仕上げとして最後の戦いに挑んでいく・・・。果たしてその結末やいかに。

 ツッコミしたくなる点はいくつかあるのだが、エンタメ系作品としてなかななのものに仕上がっている。

 アイスランドは37万人の小国なのに、やるもんだね。  

 この映画ジョディ・フォスター監督・主演でリメイクの話があるそうだ。

2023年8月29日 (火)

ドキュメンタリー映画 "大海原のソングライン"

 民俗音楽というものにはっきりとした定義はないだろうと思うが、昔から興味があった。東京芸大の小泉文夫教授がDJを務め、NHK-FMで放送されていた”世界の民族音楽”をよく聞いていたし、地元のホールで時たま開催されるコンサートもちょくちょく聞きにいった。ガーナのコギリ奏者である”カクラバ・ロビ”やバリ島のジェゴク(竹のガムラン)グループである”スアール・アグン”が強烈な印象を残している。

 そうした民俗音楽を扱ったドキュメンタリー映画が"大海原のソングライン"。北は台湾、南はニュージーランド島、東はチリ領のイースター島、西はインド洋西部のマダガスカル島までという、グーグルアースを使わないと実感できないような広大な地域をつないでいる音楽文化を描いている。

 なぜそんな広大な地域に共通した音楽文化が存在するのかというと、最近の遺伝子解析によってわかってきたことなのだが、台湾先住民がアウトリガーカヌーを使って未知の大海原に乗り出し、南太平洋の島伝いに拡散していったからだ。

 このドキュメント、ただ各地を取材しているだけではない。そうした地域のミュージシャンを多重録音と多重撮影で一つにつなぎ、壮大なスケールのアンサンブルを新たに生み出している。

 共通のルーツと文化を持つ者達が時間と空間を超えて新たにつながり、それによって生み出された音楽は実に素晴らしい。とにかく聞いてみない事には・・。 

 映画の公式サイトはこちら

2023年8月 3日 (木)

コーエン兄弟監督 ”Burn After Reading”

 コーエン兄弟の映画はどれも好きなのだが、”Burn After Reading”は一度見たきりで忘れかけていた。配信100円のセールがあったので再視聴した。

 スポーツジムに勤務するトレーナーであるチャド(ブラッド・ピット)はCIAの内部情報が書き込まれたCDを拾い、軽い気持ちで金に代えようとする。ところが、話は思惑とは外れどんどん悪い方へと転がっていく。

 登場人物は誰もが間が抜けている。演技派のジョン・マルコビッチが間抜けな役柄を真面目な顔で演じていて、それだけで相当に可笑しい。

 間が抜けた面々が右往左往していくのだが、ドタバタコメディとは違って、細部の仕草にこだわらずに突き放したようにクールに描写される。最後にそれを始末するCIA幹部のセリフが秀逸だ。ジョージ・クルーニー演ずる政府役人が自分のやったことにオロオロとしている状況を想像して、くすっと笑える。

 こういう犯罪コメディは好みだ。ブラッドピットとジョージクルーニーの組み合わせもあって、興行収入ではコーエン兄弟作品中トップとのことだ。

 エンドロールで流れるテーマ曲のようなゆるいロックが最高すぎる。まるでこの映画のために作られたような。

 この曲の日本語訳がこちら

2023年6月 8日 (木)

米映画”砲艦サンパブロ”のブルーレイ・ディスクを衝動買い

 時間調整のため久しぶりにDVDレンタルショップを覗いたところ、中古品の棚に”砲艦サンパブロ”が置いてあるのを発見。

 スティーブ・マックイーン主演のこの映画、中学校の英語の授業で教師に「お勧めの映画」と教わって映画館へ出かけた思い出の映画。もう40数年前のことだ。

 こんなマイナーな映画がDVDじゃなく、ブルーレイ版で手に入る機会は滅多にないだろうと即座に買ってしまった。レンタル品として長いこと棚に並んでいたとみえてパッケージが日焼けしているのだが、お値段528円だった。

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 その晩にさっそく視聴した。盤面には傷ひとつなく新品同様。ほとんど貸し出されなかったと思える。解像度、色乗りとも良好で、しっかりとデジタルマスタリングされている。

 脇を固めるのは一代貴族の称号を持つ英俳優・映画監督の”リチャード・アッテンボロー”、米女優"キャディス・バーゲン"。

 時は清朝崩壊後の中国の動乱期、利権を確保したアメリカが武装艦で揚子江周辺をパトロールしている。武装艦に転属してきたマックイーン演じる主人公は、やがて中国の人々の外国勢力排外運動に対峙していくことになる・・。

 マックイーンは機関兵としての自分の任務に誇りを持ち、多勢に流されない一徹な男を好演している。マックイーンのフィルモグラフィーを見るとこの作品でアカデミー主演男優賞にノミネートされているのだが、意外にもこの映画でのノミネートが最初で最後だ。

 気になったのは劇中で人民解放軍(と思われる)が残虐非道な軍隊として描かれていること。まあ、米中国交回復前の製作(1966年公開)だし、当時のハリウッド映画はそんなものでしょう。

 その後調べてみたらアマゾンでこのブルーレイが新品1,000円で売られていた。在庫限りだろうから買うなら今のうちだ。

2023年4月 1日 (土)

アメリカ映画”SMOKE”のブルーレイ・ディスクを購入

 どこにでもあった街角のたばこ屋が消えてしまって久しいのだが、ニューヨークのブルックリンにあるタバコショップが舞台となっている映画が”SMOKE”。もちろん登場人物はスパスパとタバコを燻らす。

 主役を演じるのは”ウィリアム・ハート”と”ハーヴェイ・カイテル”。どちらも好きな俳優でウィリアム・ハートが最近亡くなったと知った時はショックだった。

 ストーリーはと言うと、このタバコ屋を中心に人々が人情の縁を結んでいくというもの。私の生涯ベスト10に入れている好きな作品だ。

 時折思い出しては見たくなるのだが、ネット配信されているものは画質が悪くて、せっかくの名作が台無しになってしまっている。とても見ていられない。

 何とかならないだろうかと探してみると、デジタル・リマスターされて新しくなったブルーレイ・ディスクが発売されている。難点なのが価格で、マイナー作品だけに新品で3,550円もする。少し悩んだのだが、今買っておかないと廃版になってしまって入手困難となる可能性が高い。で、発注した。

 届いたその晩、ワクワク気分で再生してみると期待どおりの高画質。映画の挿入曲も好みで。久しぶりにこの作品を堪能することができた。

 モノをため込むのは止めようとは思っているのだが、ブルーレイディスクも少しずつ増えてきてしまっている。

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2023年1月 3日 (火)

NHK BS4K放送、4KHDR版”グリーン・ブック”

 新春企画なのだろか、NHKBS4Kで立て続けに良作が放映された。

 本作は2018年に公開され、アカデミー作品賞を獲得している。配信で2度ほど視聴しているのだが4KHDRでは初めての視聴。映画冒頭から素晴らしい画質であることを実感することができる。HDR(High Dynamic Range)で放映されているのでコントラストが高く、画面に奥行きが出てくる。色乗りも良いので、映像がリッチだ。

 肌の色も、社会的バックグラウンドも、素養もまるっきり違う者どうしが、ビジネスの関係を超えて友情を結んでいくというストーリー。ヴィゴ・モーテンセンの少し抑えた演技が光る。

 今回も永久保存を決定した。

AmazonでのHD配信版Dscn3943_1213

4KHDR放映版、コントラストと色乗りが良く、唇や皮膚の質感が高い。Dscn3928_1214_2

HDR効果により照明が写り込んでいる夜のシーンがとても美しいDscn3936_1215_2

 こうした映像を見慣れるようになると、普通の2KフルHD画質の映画では物足りなくなっていくだろな。

 Wikipediaによると黒人差別を扱った作品として本作には相当な批判があったようだ。こちら

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