世の中 Feed

2024年2月24日 (土)

ドキュメンタリー映画 "The 1619 Project"

 Netflixなどのアメリカ資本のネットメディアサービスはなかなかに優れたドキュメンタリー映画を配信している。

 なかでもアメリカ社会における黒人問題を扱った番組は充実している。”The 1619 Project”もその一つで、ニューヨークタイムズのプロジェクト記事を現地に取材して映画化したもの。執筆陣の一人であり、ピュリッツァー賞受賞者でもあるNikole Hannah jonesがこの映画の案内役となっている。

 タイトルにある"1619"とはアフリカ大陸から連行されてきた黒人がアメリカ本土に初上陸した年を指す。

 本として出版もされていて、その本を公立校の教科書に採用したり、反対に図書館の蔵書から追放するべきだと、左右両者から論争の的になったとのことだ。

 この映画を見て知ったのだが、アメリカの開拓初期には白人の奴隷が存在し、黒人奴隷と一緒に奴隷主に対して反乱を起こした歴史があるそうだ。奴隷を表す英語のスレイブはスラブ人のスラブにその語源があるそうだ。

 ずっと不思議に思っていたことなのだが、スペイン語だとムラートやメスティーソ、フランス語ではクレオールなど、黒人や先住民との混血を表す表現があるのだが、英語表現では一般化されたものがない。オバマは日本人からみればハーフなのに「黒人」初の大統領ということになっている。

 どうもその大きな一因にかつての法律があるようだ。その法によると「一滴でも黒人奴隷の血が入っている者は黒人奴隷と規定される。」なぜかと言えば、奴隷所有者と奴隷との間にできた婚外子に相続権を与えないためだ。「黒人奴隷には法的権利がないので、混血児を黒人奴隷と規定すれば財産相続からその者を排除できる。・・・」 そういう理屈でいくとケビン・コスナーもジョニー・デップもアメリカ先住インディアンということになってしまう。と言うこと以上に大概の人はネアンデルタール人ということになってしまう。

 同じ植民者でもスペイン人は南米で現地化していき、メキシコではメスティーソが社会の多数派にさえなっている。それに比べてアングロサクソンはどうにも偏狭な人たちのように思えてくる。

The 1619 Projectの公式ウェブサイトはこちら 

2024年1月23日 (火)

ドキュメンタリー映画 "パレスチナ 1948・NAKBA"

 タイトルにある「1948」はイスラエル建国の年、「NAKBA」はアラブ語で「大惨事」を意味する。パレスチナ難民にとってこの二つは結びつく。

 監督した広河隆一氏はイスラエルの農業共同体であるキブツに暮らした経験を持つ。その時キブツ近くで集落の廃墟を見つける。そのことに疑問を抱いた同氏がその集落の歴史を追い始めることになる。以来イスラエルとパレスチナ双方を行き来しながら永年にわたり取材を続けてきた。その記録を集大成したものがこの映画だ。公開は2008年。

 ドキュメンタリー映画は結構な数を見てきたつもりだが、パレスチナ問題を扱ったものを視聴するのはほとんど初めての経験。問題の大きさに比べて、まとめられた映像資料を見られる機会があまりにも少ない。そんな中で日本人がここまで問題を掘り下げ、これだけのドキュメンタリー映画を作り得たのは驚きだ。

 この映画、ただパレスチナ側だけを取材しているわけではない。広河氏はイスラエル側の平和運動にも直接参加した経験を持ち、イスラエル人の歴史学者、元軍人などにも幅広く取材している。

 パレスチナ人の難民のことをイスラエルとアラブ諸国が戦争を始めたことで、「戦火を逃れるために一時避難している人達」と理解しているとしたら、それは大きな間違いだ。この映画を見ればそのことが事実としてわかるようになる。

 パレスチナ問題の事の始まりを知っておかないと、問題の全容はとうてい見えてこない。この映画はその取り掛かりとしての役割を充分に果たしているように思える。

 この映画、U-NEXTで現在配信中。お試し加入すれば視聴できる。

 製作者の広河氏は性加害を行ったことで告発され、現在係争中だ。経過概要はこちら

2023年12月24日 (日)

インド系スタンダップ・コメディアン "Hasan Minhaj"

 アメリカの舞台芸としてのコメディは日本の掛け合い漫才とは違って一人で演じるものが主流のようだ。Netflixには結構な数の番組が出ていて大きな劇場を一人で満員にして喝采を浴びている人がたくさんいる。

 ハッサン・ミンハジもその一人だが、インド人の両親を持つ在米2世でモスレムという経歴の人。アメリカ社会でのインド系の活躍は最近かなり目立っていて、映画やドラマにはIT企業の経営者や医師として頻繁に登場する。

 この人の持ちだねは社会制度や政治というカタイ話で、日本の芸能界では避けて通るもの。笑いのオブラートには包まれているが直球で飛んでくる。当然英語でしゃべりまくるのだが、意外にも字幕でも結構に楽しめる。

 その彼が自身の生い立ちや家族、芸歴をタネにして独演しているのが「ハサン・ミンハジのホームカミング・キング」という番組。笑えるのだが、モスレムVsヒンドゥーという際どい宗教ネタには思わずドキリ。

 日本でも松尾貴史あたりが政治ネタの一人漫才をNetflixでやってくれないだろうか。

 この番組を紹介したダイジェスト動画があるのだが、残念ながら日本語字幕がない。

2023年11月18日 (土)

イタリアでキャシュレス社会を実感

 先月末からイタリア南部へ出かけてきた。そこで実感したのがキャシュレス社会。日本なんかとは数段に進んでいる。

 ミネラルウォーター1本を買うのでもクレジットカードが使える。しかもすべてタッチ決裁が可能で、小さな個人商店でも対応の端末を備えている。私の地元だと大きいドラッグストアでも端末にカードを差し込ませてpinコードを打ち込まないといけない。

 カフェでは紙のメニューを備えていないところがある。テーブルに置かれているQRコードを自分のスマホで読み込みディスプレイにメニューを表示させないと注文ができない。

 ナポリでのこと。美術館などの施設入場券と交通機関の乗車券がセットになっているお得な周遊カードがあるのだが、市中のどこでも売られていたそのカード現物が市内2か所でしか売られなくなっている。

 仕方がないのでネット販売を利用して電子カードを購入した。アプリを導入してアカウントを作らないといけないのでパスワードやなにやらと面倒だ。しかも支払のクレジットカードは本人認証サービスの設定がされている必要がある。一度だけで数日しか使うことがないものにそれだけ手間がかかるのはキャシュレス社会のマイナス面だ。

 ローマでは、メトロ、トラム、バス、いずれも紙の切符を買う必要がない。車内か改札口にタッチ決裁に対応した端末が備えられているのでクレジットカードを軽く接触させるだけすべて乗車できる。

 ちなみに料金は1回につき1.5ユーロで、100分以内であればすべての交通機関を乗継することができる。(注)

 バス、トラム内に備え付けのタッチ決裁対応の端末がこれ↓Romatanmatu_1365_2  驚いたのがナポリ駅の公衆トイレ。タッチ決裁に対応した自動ゲートを備えている。ヨーロッパでは公共のトイレといえど大抵は有料だ。

 もはや、ヨーロッパ旅行に現金はほとんど必要なくなっている。レストランでのチップもイタリアでは元来義務ではないので、キャッシュレス化によって払わない人が増えているとのことだ。ATMは銀行店舗に併設されたものはあるのだが、街中で単独で設置されたものは見かけなくなっている。

 さて、帰国したからのこと。JR関空駅で切符を買おうとしたのだが、空いている自販機ではクレジットカードが使えなく、交通系のICカードか現金のみ、しかも近郊駅までの切符しか買えない。久しぶりに財布から現金を取り出すことになった。サンダーバード車中で乗り越し手続きをしたのだが、清算料金の支払いはもちろん現金のみだ。

注)乗継する度に乗継先の乗り物でタッチ決裁する必要がある。何回タッチ決裁しても100分以内だったら最初の1.5ユーロしか引き落としされない。きちんとシステムが判定している。 

追記)つい先日のこと、運転免許関係の申請を行ったのだが、何ということか証紙納付だった手数料をキャッシュレスで支払えるように端末が整備されていた。もちろんタッチ決裁対応だ。日本のキャッシュレスはコンビニが先行し、後追いながら役所が前のめりになって普及させようとしているようだ。 

 埼玉県では近い将来に現金(証紙)払いができなくなるとのことだ。カードもスマホもない人はどうしたらいいのかというとコンビニ納付らしい。コンビニが近くになく、運転免許も返納した老人は・・・?

2023年7月31日 (月)

「ストライキ権の確立」がニュースになっている

 ストライキと言うものが日本ではきれいさっぱり消え去ってしまった感があるのだが、そごう・西武労働組合がストライキ権を確立して経営譲渡問題に関して交渉にのぞむとのニュースが流れた。

 ストライキを「行った」のならともかく、「確立した」のがニュースになるとは驚きだ。今やそれだけ珍しくなってしまったのだろう。

 またもや昔話になってしまうが、私が地元の繊維関係会社に就職して間もなく、ニュースになっているその「ストライキ権確立」の投票を行った。4月に入社するとして、すぐに春闘の時期になる。投票を求める文面ははっきり覚えていないのだが、確か「ストライキの指令を発する権限を中央執行委員会に委ねる。」というものだった。

 当時は「ストライキをするかしないかは自分で決める。幹部連中に委ねてたまるか。」との思いで「×」を投票した。今考えると、自分一人だけでストライキを行っても意味はない。組織の力で資本と対抗していくものだと思うが当時は世間のことを良く分かっていなかった。

 そうなのだが、一人でストライキを決行するひともいる。有名なのはグレタさんだが、なんと日本でもいるのだ。靴小売りの「ABCマート」で一人でストライキを行い、賃上げを勝ち取ったとのことだ。いや凄いよ。

 そごう・西武労働組合のニュースはこちら

 ABCマートのニュースはこちら

  ABCマートの女性労働者が加盟した労組はこちら

 若い時分の経験に戻るのだが、自分では「×」を書き込んだもののストライキ権は確立し、やがて本部からの指令が発せられ組合はストライキに突入した。ただし、数時間後には今度はストライキ解除の指令が発せられて、短いストライキはあえなくお開きとなってしまった。まあ、賃上げの儀式のようなものだったのだろう。

2023年5月30日 (火)

宮古島からの報告

 ”宮古島”と聞くと、「南国のリゾート」や「トライアスロン国際大会」が頭に浮かんでくるのだが、いまでは自衛隊が駐屯し、ミサイル部隊を中心にして一大軍事拠点化が進んでいるとのことだ。

 日頃は出不精なのだが、偶然に顔を会わせた友人に集会に誘われた。5月の連休中のことだ。集会では宮古島の現地からの現状報告がなされた。

 報告者は全国各地に出向き公演報告活動を続けている「ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会」共同代表の 清水早子さん。

 それなりに新聞などは読んでいるつもりだが、そうした事実そのものをほとんど知らなかった。

 宮古島は沖縄本島と台湾とのちょうど中間ぐらいに位置する。太平洋戦争末期には地上戦こそなかったものの米軍の艦砲射撃と封鎖による飢餓、疾病で多くの島民が亡くなった歴史を持つ。

 米軍から引き継いだレーダーがあるだけの島だったのが、今では軍事施設だらけに・・・。

 憲法を逸脱し、歯止めを欠いたまま日本の軍備拡大は暴走しつつあるように思える。そうした未来には何が待っているのか・・・・・・。

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 連絡会のfacebookはこちら

 関連リンクはこちら

2022年9月 4日 (日)

英保守党の党首選が大詰めとなっているのだが

 イギリス保守党の党首選が大詰めとなっていて、もうじき結果が出るとのことだが、ジョンソンの辞任表明が7月7日なので、まあ長丁場だ。最下位を切り捨てて候補者を絞り込む方法はローマ法王を選ぶコンクラーベと同じか。

 そこまで手間暇かけるというのは日本人にとって常識の範囲外なのだが、コストを掛ける理由があるのだろうね。なにしろ王権と対峙して議会制度を作り上げ、守ってきた国なのだから。

 それに比べると我が国の某政党の総裁選などはいい加減さの極みだ。やる度にルールが変わるうえにルールを変えさせた方が勝つことになっている。他の政党も似たり寄ったりだ。日本の政党は組織として筋が入っていないように思える。なにかふにゃふにゃして掴みどころがない。

 旧聞になるが、2017年に民進党が小池新党へ合流しようとした時には驚いた。時の前原代表はどういう党内手続きを踏んだというのか。政党というよりも組織としての体をなしていない。

 2018年に行われたドイツの社会民主党(SPD)とキリスト教民主同盟との大連立協議では、SPDは「連立するのか否か」を問うために全国党大会を開催し、その後に党員の1票投票を実施している。

 両者には天と地ほどの開きがある。あれこれ論評するのも空しい。私たち自身が「その程度のもの」なのだ。

 参考リンク

2022年6月28日 (火)

追悼:小田嶋隆氏

  コラムニストの小田嶋隆氏が24日に亡くなったとのニュースが流れた。彼を知ったのは最近のこと、日経のオンラインの無料会員になり日経ビジネスに連載中のコラムを読むようになってからだ。

 権力者が持つ偽善性を少し斜めの切口から深堀して、鮮やかに浮彫にしてくれた。そうした一連のコラムは私にとっては新鮮な文書体験となった。無料ネット会員なので、ついぞその対価を支払ったことはないのだが、追悼の意味で彼の著作を探してみることにしたい。

 親交のあった内田樹氏が追悼文を書いているのでご紹介する。こちら

 日経ビジネスの追悼記事はこちら 

2022年4月 6日 (水)

ドキュメンタリー映画 ‟シークレット・ラブ 65年後のカミングアウト”

 同性愛を描いた映画はごく普通になったが、ドキュメンタリー映画を見るのは初めて。

 アメリカ北部で65年以上一緒に暮らしていたレズビアンカップルがいる。仲の良い友達として周囲に振舞っていたのだが、カミングアウトを決意する。映画はそのカップルの過去を探り、その行く末を追う。

 日本では異性装をする人は昔から結構いて、芸能界では人気キャラの一つなのだが、アメリカの場合は宗教上の規範に由来して同性愛自体が犯罪とされ、異性装をしているだけで逮捕された。

 シカゴのデイリー市長は1968年に開かれた民主党全国大会へのデモを弾圧したことで有名な人なのだが、なんと、行政が掴んだ同性愛者の名簿を公表している。そのことにより多く同性愛者達がが職場を追わることとなった。

 主人公である彼女たち二人はそうした息苦しい時代をなんとか耐え、ついにカミングアウトに至る。その二人を今では周囲があたたかく見守るようになった。しかし、老齢となり身体機能が低下していく二人には新たな試練が待っている。

 時代は変化してきたのだが、何時でも変わらない愛を育んできた二人の姿はとてもチャーミングだ。

2022年3月28日 (月)

ウクライナ戦争と憲法改正

 EUと隣である国で戦争が起きるとは考えもしなかった。一刻も早く終結することを願うばかりだ。

 この戦争を機に、国内で「核共有」とか「先制攻撃能力」とかの議論を巻き起こそうとする人たちがいる。戦争体験を持つ政治家がほとんどいなくなり、悲惨な結果をもたらした歴史さえ風化しかかっている。

 日本総研の藻谷浩介氏のコラムは時々拝見していて、ファンの一人である。

 毎日新聞に掲載されたコラムは簡明な文面でことの本質に迫っている。

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時代の風:

言葉遊びと本当の自衛 「9条改正」は自滅の道

藻谷浩介・日本総合研究所主席研究員

毎日新聞 

ウクライナで大量殺人と生活の破壊が続いている。「戦争なので仕方ない」と思う人は、今の日本にどのくらいいるのだろう。「1人殺せば悪党で、100万人だと英雄だ」と叫んだのは、作中のチャプリンだったが、これは今でも正しいのか。

 確かに20世紀半ばまで、人類の歴史は戦争の歴史だった。しかし21世紀の今、物質文明が国境を超え、複雑な分業の上に成り立つようになって、戦争に実利はなくなった。食料やエネルギーは、買うか自製する方が早くて安全だ。住民のいる場所を侵略しても、統治に手を焼くだけである。

 それでもまだ、宗教やイデオロギー、権勢欲、身勝手な筋論や被害妄想に駆られて、戦争を起こす者はいる。ロシアのプーチン大統領はその最新の例であり、米国によるイラク侵攻などもそうだっただろう。

 今の時代において戦争は、もはや大規模なテロ行為以外の何物でもない。唯一正当化できるのは、ウクライナがいま行っているような、先制攻撃に対する正当防衛としての戦いだけだ。

 とはいえ、身をていし、戦力で圧倒的に勝るロシアの侵攻を食い止めているウクライナも、残念ながら膨大な数の市民の人命被害は防げていない。「人命を守るために降参すべきだ」とは筆者は言わない。だが「正当防衛の権利を行使するからといって、個人の安全が増すわけではない」というのは、絶対的な現実である。過去に侵略者に踏みにじられた無数の国々の圧倒的多数も、防衛意識にあふれていたけれども敗れたのだ。

 こういう現実をまったく見ていないのか、「憲法9条改正で国を守ろう」と唱える人がいる。そもそも憲法は、自国の政府権力を規制するものであり、どう改正しても外国をけん制はしない。改正せずとも日本には、攻撃を受けた際に正当防衛する権利があり、自衛のための武装もある。それらに加えて「武力行使は辞さないぞ」と憲法に明記することに、言葉遊び以上のいかなる意味があるのか。

 「『戦争の準備はある』と唱えれば国を守れる」というのは、「平和を唱えれば平和になる」というのと同じく、平和ボケの日本人の言霊(ことだま)信仰だろう。それどころか周辺国が「改憲によって日本の侵略の危険が増した」などと言い訳して軍備増強に走れば、さらにリスクが増すだけだ。必殺技を繰り出す前に、いちいち技の名前を叫ぶのは、漫画の世界の話であって現実には無用である。黙って粛々と備えればいいのだ。

 「正当防衛にとどまらず、自衛のための先制攻撃を認める」というのも、危ないからこそ憲法で禁じているのである。かつてのヒトラーも大日本帝国も「自衛」の名で先制攻撃に走り、そして滅びた。イラクで死んだ米兵や、ウクライナで死ぬロシア兵を見てもわかる通り、自国が先制攻撃することは、これまた無駄に国民を危険にさらす行為である。それこそが日本人が、長い歴史の中で一度きりの外国による占領から、血を吐く思いで学んだ教訓だ。

 「ウクライナも核武装をしていれば大丈夫だった」という人があるかもしれない。だがその先にあるのは結局、多くの国々が核武装する世界だ。偶発的な核戦争や、テロリストによる核兵器奪取のリスクが高まり、世界はより危なくなる。

 だからこそ南アフリカは、核を廃棄して周辺国の対抗意欲を封じた。その逆がイスラエルで、「中東では自国だけが核を持つ」という無理な状況を続けようとするほど、将来の危険が増すのではないか。

 ウクライナの人たちをどう救い、プーチン氏にどう落とし前をつけさせるのか道筋は見えない。

 しかし、金より命である。彼の後に続く者を出さないためにも、目先の損は辞さずに経済制裁を徹底すべきだ。

 加えて、「攻撃されれば死を賭して反撃するが、先制攻撃はしない」と宣言する国を一つでも増やすことが、リスクの緩和のためには肝要である。かつてスイスが、ナチスの包囲を乗り切った道もこれだった。

 何のことはない、「戦争を国際紛争解決の手段としては使わない(正当防衛は除く)」という、日本の平和憲法を世界に広める努力こそ、言葉遊びではない本当の自衛行動である。

 「9条改正」は、日本の現実的な安全を損なう自滅の道ではないか。

 毎週日曜日に掲載

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