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2022年3月28日 (月)

ウクライナ戦争と憲法改正

 EUと隣である国で戦争が起きるとは考えもしなかった。一刻も早く終結することを願うばかりだ。

 この戦争を機に、国内で「核共有」とか「先制攻撃能力」とかの議論を巻き起こそうとする人たちがいる。戦争体験を持つ政治家がほとんどいなくなり、悲惨な結果をもたらした歴史さえ風化しかかっている。

 日本総研の藻谷浩介氏のコラムは時々拝見していて、ファンの一人である。

 毎日新聞に掲載されたコラムは簡明な文面でことの本質に迫っている。

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時代の風:

言葉遊びと本当の自衛 「9条改正」は自滅の道

藻谷浩介・日本総合研究所主席研究員

毎日新聞 

ウクライナで大量殺人と生活の破壊が続いている。「戦争なので仕方ない」と思う人は、今の日本にどのくらいいるのだろう。「1人殺せば悪党で、100万人だと英雄だ」と叫んだのは、作中のチャプリンだったが、これは今でも正しいのか。

 確かに20世紀半ばまで、人類の歴史は戦争の歴史だった。しかし21世紀の今、物質文明が国境を超え、複雑な分業の上に成り立つようになって、戦争に実利はなくなった。食料やエネルギーは、買うか自製する方が早くて安全だ。住民のいる場所を侵略しても、統治に手を焼くだけである。

 それでもまだ、宗教やイデオロギー、権勢欲、身勝手な筋論や被害妄想に駆られて、戦争を起こす者はいる。ロシアのプーチン大統領はその最新の例であり、米国によるイラク侵攻などもそうだっただろう。

 今の時代において戦争は、もはや大規模なテロ行為以外の何物でもない。唯一正当化できるのは、ウクライナがいま行っているような、先制攻撃に対する正当防衛としての戦いだけだ。

 とはいえ、身をていし、戦力で圧倒的に勝るロシアの侵攻を食い止めているウクライナも、残念ながら膨大な数の市民の人命被害は防げていない。「人命を守るために降参すべきだ」とは筆者は言わない。だが「正当防衛の権利を行使するからといって、個人の安全が増すわけではない」というのは、絶対的な現実である。過去に侵略者に踏みにじられた無数の国々の圧倒的多数も、防衛意識にあふれていたけれども敗れたのだ。

 こういう現実をまったく見ていないのか、「憲法9条改正で国を守ろう」と唱える人がいる。そもそも憲法は、自国の政府権力を規制するものであり、どう改正しても外国をけん制はしない。改正せずとも日本には、攻撃を受けた際に正当防衛する権利があり、自衛のための武装もある。それらに加えて「武力行使は辞さないぞ」と憲法に明記することに、言葉遊び以上のいかなる意味があるのか。

 「『戦争の準備はある』と唱えれば国を守れる」というのは、「平和を唱えれば平和になる」というのと同じく、平和ボケの日本人の言霊(ことだま)信仰だろう。それどころか周辺国が「改憲によって日本の侵略の危険が増した」などと言い訳して軍備増強に走れば、さらにリスクが増すだけだ。必殺技を繰り出す前に、いちいち技の名前を叫ぶのは、漫画の世界の話であって現実には無用である。黙って粛々と備えればいいのだ。

 「正当防衛にとどまらず、自衛のための先制攻撃を認める」というのも、危ないからこそ憲法で禁じているのである。かつてのヒトラーも大日本帝国も「自衛」の名で先制攻撃に走り、そして滅びた。イラクで死んだ米兵や、ウクライナで死ぬロシア兵を見てもわかる通り、自国が先制攻撃することは、これまた無駄に国民を危険にさらす行為である。それこそが日本人が、長い歴史の中で一度きりの外国による占領から、血を吐く思いで学んだ教訓だ。

 「ウクライナも核武装をしていれば大丈夫だった」という人があるかもしれない。だがその先にあるのは結局、多くの国々が核武装する世界だ。偶発的な核戦争や、テロリストによる核兵器奪取のリスクが高まり、世界はより危なくなる。

 だからこそ南アフリカは、核を廃棄して周辺国の対抗意欲を封じた。その逆がイスラエルで、「中東では自国だけが核を持つ」という無理な状況を続けようとするほど、将来の危険が増すのではないか。

 ウクライナの人たちをどう救い、プーチン氏にどう落とし前をつけさせるのか道筋は見えない。

 しかし、金より命である。彼の後に続く者を出さないためにも、目先の損は辞さずに経済制裁を徹底すべきだ。

 加えて、「攻撃されれば死を賭して反撃するが、先制攻撃はしない」と宣言する国を一つでも増やすことが、リスクの緩和のためには肝要である。かつてスイスが、ナチスの包囲を乗り切った道もこれだった。

 何のことはない、「戦争を国際紛争解決の手段としては使わない(正当防衛は除く)」という、日本の平和憲法を世界に広める努力こそ、言葉遊びではない本当の自衛行動である。

 「9条改正」は、日本の現実的な安全を損なう自滅の道ではないか。

 毎週日曜日に掲載

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