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2014年9月20日 (土)

スコットランド独立投票

残念な結果だったけど、アメリカに追随して金儲け至上に走るロンドン中央政府に一泡吹かせたのは痛快だった。

経済学者の浜矩子(敬称略)は辛口のコラムを毎日新聞に書いていて、私はいつもそれを楽しみにして、面白く読んでいるファンなのだが、今回の独立投票に関してのコラムがさっそく載っていた。

なるほどだね。記事全文をコピペでご紹介する。

記事へのリンクはこちら

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危機の真相:諦めることなかれ、スコットランド 熱血と計算高さと=浜矩子

毎日新聞 2014年09月20日 東京朝刊

 スコットランドは独立国となるか。住民投票の結果は「ノー」だった。実に残念。この間、このテーマを巡って、二つの記憶が筆者の頭の中を去来した。

 記憶その1は、多感なりし少女時代のものだ。1960年代前半、イギリスで暮らし始めて間もない頃、両親につれられてスコットランドの旅に出た。バス旅行の途中でティータイムストップがあった。ホテルの喫茶室で給仕してくれた陽気なおばちゃんが、「この小さいお嬢ちゃんには何を差し上げましょうか?」と言ってくれた。

 その時思った。「ああ、やっぱりスコットランド人はこういう英語をしゃべるんだ。テレビと同じ!」

 記憶その2は、90年代初めのものだ。前記の少女時代以来、久々のロンドン暮らしが始まった頃だ。前職だった三菱総合研究所の駐在員事務所長として、何とか仕事の体制が整い、面白そうなシンポジウムに出かけてみた。欧州連合(EU)内における地方自治のあり方を議論する会合だった。

 自決心旺盛な地域共同体の代表たちが、各国からスピーカーとして登場した。その中に、現スコットランド民族党党首で自治政府首相のアレックス・サモンド氏がいた。何しろ、今を去ることほぼ四半世紀近く前の話だ。サモンド氏の体重は、今のほぼ半分弱といったところだったろう。あの時に比べて、すっかり体形は丸っこくなった。だが、独立スコットランドをうたい上げるその舌鋒(ぜっぽう)の鋭さは、今もあの時も変わりはない。

 熱さと計算高さが絶妙に絡み合う。このしたたかなスコットランド魂を、サモンド氏が長きにわたって体現してきた。その成果が、ついに今回の住民投票として結実した。まさかここまでくるとは。これが、「国境の南側」の人々(スコットランド人たちは、イングランド人たちをこう呼んできた)の思いだ。そもそも住民投票が実現すること自体について、彼らは「まさか」感を抱いていた。いわんや、否定されたとはいえ、かくも独立支持派が勢力を持つとは、およそ想定していなかった。

 征服者と被征服者の違いはかくのごときものだ。征服した方は、被征服者の痛みを容易に忘れる。被征服者の思いは、時を超えて受け継がれていく。過去は忘れよう。かつて征服者だったイングランド人がいくらそう呼びかけても、かつて独立国だったスコットランドの人々は、神経を逆なでされるばかりだ。

 基地や原発などの迷惑施設は、なぜ特定の地域に集中配置されるのか。その見返りとして、カネさえ出しておけば何とかなる。「最後は金目でしょ」。為政者たちは、なぜそのように思うのか、この間のスコットランド模様を見守りながら、このような少々別のテーマにも思いが及んだ。

 必ずしも、スコットランドが英国政府に金目で小突き回されてきたとはいえない。だが、住民投票が「まさか」の方向に行く気配を感じて、「国境の南側」が示したパニックぶりをみていて、ふと、前記の連想が頭をよぎった。「国境の北側」の人々の思いの深さとその思いの性質について、南の衆はやっぱり感受性が鈍い。

 ところで、今回の住民投票には一つの面白い特徴があった。スコットランド在住者なら、誰でも投票権があった。何も、スコットランド生まれの生粋のスコットランドっ子である必要はなかった。イングランド出身者であろうと、他の欧州諸国からの移住者であろうと、かまわない。住民投票だから当然といえば当然だが、なかなか合理的だ。これもまた、スコットランドらしい。常識と熱血のバランスが程よい。

 そして、非スコットランド人の在住者たちは、かなりの割合で独立支持側に入ったらしい。確かな数値を持っているわけではないが、現地からの口コミによれば、どうもそうなった模様だ。一寸の虫が五分の自決心を輝かせることに、非スコットランド人の在住者たちもエールを送った。

 ちなみに、大陸欧州系のスコットランド在住者の中では、ポーランド系住民のウエートが高い。ポーランドといえば、現代史の中において、まさに自決のための闘いが絶えなかった国だ。当初はドイツを相手に。そして、やがては旧ソ連を相手に。文字通り、命がけで祖国の独立を奪還する闘争に挑んだ。そのポーランド人たちがスコットランド在住者となった時、独立支持に票を投じたとすれば、それは大いに納得がいく。

 もっとも、同じポーランド精神が、別の形で表れたケースもあった。スコットランドに住み始めてまだ半年のあるポーランド人は、今回の投票に参加することを遠慮した。その彼いわく、「これはスコットランド人にとってあまりにも重要な問題過ぎる」(18日付英フィナンシャル・タイムズ紙)から、新参者の外国人が投票するのは差し出がましいというわけだ。

 この心意気もなかなかいい。民族自決の思いを共有するものたち。その同志精神は爽やかだ。粘り強きスコットランドよ、どうぞまた捲土(けんど)重来を。

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 ■人物略歴
 ◇はま・のりこ

 同志社大教授。次回は10月18日に掲載します。

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