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2020年12月

2020年12月30日 (水)

アメリカの貧困を描く"フローズン・リバー"

 かなり前にレンタルで視聴して、いつまでも心に残っている作品。もう一度見てみたいと思っていたのだが、アメリカ映画といえどもマイナーな作品はそうそう簡単には見られない。

 それがちょうどアマゾンのプライムビデオで100円で配信されているのを発見した。制作は2008年だが日本公開は2010年とのことなので、あの頃から既に10年近くが経過していることになる。

 アメリカとカナダの国境地帯が舞台。白人女性とネイティブアメリカンの女性二人が主人公、二人ともトレイラー暮らしをしていて貧困に苦しんでいるだが、互いの生活が交わることはなかった。その二人の人生がある事件をきっかけに交差していく。やがては互いを利用しながら違法な稼業に手を出していくことになる・・・。

 貧乏を絵に描いたような暮らしが丁寧に描写され、主人公達の内面が浮かび上がてくる。二人を取りまく脇役達の存在感も秀逸だ。

 主役を演じたメリッサ・レオという人はこの作品でアカデミー主演女優賞にノミネートされたとのこと。もう一人の主役であるネイティブアメリカン女性を演じたミスティ・アッパムという人は2014年に若くして亡くなっている。

 予告編って普通は面白そうに編集して本編を視聴したくなるようにしてあるのだけど、この作品の予告編はひたすらに地味だ。

2020年12月26日 (土)

コロナ禍での年の瀬

 2008年のリーマンショックでは主に製造業に従事する男性の不安定就労者が打撃を受けたのだが、今回のコロナ禍では少し違っていて、女性の不安定就労者を直撃している。影響の大きい飲食業や小売業はそもそも小規模事業者が多いし、女性の不安定就労者が多い。

 そうした仕事と住居を失い露頭に迷っている人たちをなんとか助けようと活動している人たちがいる。作家の雨宮処凛氏もその一人。

 毎日新聞にインタビュー記事が掲載されていた。記事はこちら

 「新型コロナ災害緊急アクション」へとりあえず寄付をした。寄付の方法はこちら

2020年12月24日 (木)

海外で活躍するロック・ミュージシャン

 海外のロックバンドでアジア系のプレイヤーを見かけることがある。「日本人だろうな」と思って調べてみると、やはりそうだということが多い。

 浮き沈みの激しいロック界、まして海外で楽器ひとつで食べていくというのは大変なことだろうと想像するのだけど、ものともせずに挑戦する若手ミュージシャンがこれからも出てきてほしいものだ。

 そうした中の4人をご紹介。

 L.A.拠点に活躍するベーシスト、Yuki "Lin" Hayashi

 シンプリー・レッドのギタリストでロンドン在住、鈴木 賢司

 ネヴィル・ブラザーズでギタリストだった福田マクニ

 ニューオリンズ在住のキーボードプレイヤー、Keiko Komaki

2020年12月18日 (金)

スマホ・デビュー

 スマホはおろかケータイも自分用のものを持ったことがない、そもそも顔を見ないで相手と会話すること自体が苦手だ。年に数回程のことだが、どうしても必要な時には連れ合いのiphoneを借りて済ませていた。

 最近になって台湾のIT担当相だったオードリー・タン氏がスマホを持っていないことを知り、「私と同じじゃないか!」とすっかり気を良くしていた。それもつかの間のことで、ついこの前にスマホを持たなくてはいけない状況になってしまった。

 選択肢は山ほどあるのでどれにすべきか迷う。旅行先で使っている7インチタブレットが骨董品レベルのandroid4.2なものだから対応していないアプリが増えて難儀していたこともあり、その代替えにもなる大型のスマホを調達することにした。

 決めたのはXiaomi製の“Redmi Note 9S”、今夏に発売された最新機種で価格対性能比が良いと評価が高いやつだ。ちょうどOCNがキャンペーンをやっていて、200円で購入できた。

 OSはandroid10でディスプレイが6.67インチ。カメラが充実していてリアは4眼、4K動画も撮影できるらしい。イヤフォンで音楽を聴いてみると音質もなかなか良い。買ったからにはしばらくこれで遊んでみることにする。

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2020年12月17日 (木)

学術会議への任命拒否問題を考え続けなくては

 学術会議の新会員任命拒否問題をこのままにしてはいけない。自分の意見を表明したり、文書を発表したりしたことがある者にとっては人ごとではないのだけど、それ以上にすべての人とっても日本の将来にかかわってくる問題だ。これがターニングポイントだったと後に言われないようにしなくてはならない。

 中島岳士氏へのインタビューが毎日新聞に掲載されていた。いつもながら的確な指摘だと思う。たくさんの人に読んでもらいたい。

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排除する政治・学術会議問題を考える:/上

“理由示されず、忖度加速”

東京工業大教授・中島岳志氏

毎日新聞 2020年12月17日 東京朝刊

 
中島岳志 東京工業大教授=東京都千代田区で2018年8月3日
梅村直承撮影

 日本学術会議が推薦した新会員候補者のうち6人を菅義偉首相が「任命拒否」した問題が尾を引いている。拒否された候補は過去に政府方針に反対した経緯があり、見せしめ的手法で異論を排除しようという政権側の思惑がにじむ。この問題をどう見るか、識者に聞く。近著「自民党 価値とリスクのマトリクス」などで菅氏の政治手法を分析している中島岳志・東京工業大教授(日本政治思想)は、「こうした手法はあっという間に国民に向けられる」と警鐘を鳴らす。

【聞き手・浦松丈二】

 ――6人を任命しなかった菅首相の狙いをどう見ますか。 

 ◆菅さんの狙いは忖度(そんたく)を加速させることでしょう。理由を明かしていないことがポイントです。理由を明かさないことで「あの時の発言が引っかかったのではないか」「いやあの発言だ」と周囲が詮索し、自主規制のハードルを上げてしまいます。明確な理由が提示されないほど、忖度は加速するのです。

 ――確かにメディアは6人が任命されなかった理由を必死に報じています。

 ◆まさに術中にはまっています。菅さんの思い通りにメディアが「加藤陽子教授は過去に何を言っていたか」「何が引っかかったのか」と詮索している。思っているように動くメディアの姿に、菅さんはほくそ笑んでいることでしょうね。

 ――官房長官時代には官僚支配が恐れられました。

 ◆菅さんの特徴はなんといっても「人事」です。人事権を握ることで、巧みに誘導し、忖度を生み出すことで、相手を支配しようとします。野党時代に書いた自らの著書「政治家の覚悟」の中で、手の内を明かすように次のように述べています。

 <人事権は大臣に与えられた大きな権限です。どういう人物をどういう役職に就けるか。人事によって、大臣の考えや目指す方針が組織の内外にメッセージとして伝わります。効果的に使えば、組織を引き締めて一体感を高めることができます。とりわけ官僚は「人事」に敏感で、そこから大臣の意思を鋭く察知します>

 明確に言わなくても官僚は<察知する>のです。<官僚>を<学者>に読み替えてください。官僚支配を学術界に広げていくことが菅首相の狙いなのでしょう。こうした手法はあっという間に国民に向けられると思った方がいい。

 ――任命されなかった加藤陽子・東京大教授は毎日新聞に寄せたコメントで「なぜ任命されなかったか」を被推薦者に尋ねるのは本末転倒だと。首相の決定こそを問題にすべきだと喝破しています。

 ◆その通りだと思います。忖度のメカニズムが国民に及んでしまった例として、戦前の宮沢・レーン事件という有名な冤罪(えんざい)事件を思い出します。戦前にあった軍機保護法は1937年の改正でスパイ取り締まりの対象が軍内から一般国民に拡大されました。この法律を使って、北海道大学の宮沢さんという学生が米国人のレーン先生と一緒にスパイ容疑で逮捕されてしまう。両親も同級生も冤罪を疑って、いろんな人に話を聞いて回りました。ポイントになるのが、レーン先生がお世話になっていた本屋の主人です。同級生から話を聞かれた主人は「親しくありません」と答えてしまう。親しいと答えたら、仲間と間違われて捕まるのではないかと、口をつぐんでしまうのです。これが忖度のメカニズムです。権力側が設定した基準以上に、言論の自主規制が起こり、自発的に萎縮が拡大していきます。

 ――こうした悲劇がまた起きてしまうのですか。

 ◆ええ。フランスの思想家ミシェル・フーコーの「監獄の誕生」にパノプティコンという監視システムが紹介されています。中央の看守からは全収容者が見渡せ、収容者はブラインドなどによって互いの姿や看守が見えない工夫がされている。つまり、いつ自分が見られているのかが分からない。そうすると、収容者は監視されていることを前提に行動するようになり、最終的に看守がいなくても従順になります。フーコーは、効率的かつ効果的、ローコストで人間を支配するためにはどうすべきかを考え、パノプティコンというシステムにたどり着きます。重要なのは実際に監視することではない。監視されているという思いを植え込むこと。自分はチェックされているのではないか。難しい言い方をすると、権力のまなざしの内面化が人々に起きたとき、権力の支配の構造が最も効率的で効果的に発揮されるというのがフーコーの議論です。

 学術会議の問題に戻ると、6人が任命されなかった理由を誰も言わないのです。そして人々が詮索を始める。6人は何を言ったか、何に署名したか。メディアが報じた情報も含め、出てきた情報がすべてハードルに変わっていく。学術会議の会員になりたい人はたくさんいるでしょう。その人たちにとって、詮索して出てきた6人の情報が、新たな歯止め、基準になっていく。「政府に批判的な発言をすると、候補者から外されるのではないか」「だったらやめておこう」となると、菅さんの術中にはまっていくのです。

服従、学者の次は国民

 ――それにしても105人の推薦者から6人が選ばれた理由が分かりません。誰が見ても立派な研究者だと思います。

 ◆そこです。いずれも穏やかな論客とみられています。だから狙われたのでしょう。6人が政治色の鮮明な左派だったとしたら、あいつは極端な反政府論者だから引っかかったのだ、と思われて安心させてしまう。むしろ穏やかな論客であれば、ほとんどが自分も当てはまるところがある、と思うでしょう。よく考えているなと思います。研究者には、特定の政治的ステートメントに賛同人として名前を連ねてほしいという依頼が来ます。しかし、これからはちゅうちょする人が出てくるでしょうね。要するに萎縮が起きてしまう。

 ――学問の自由まで萎縮したら日本の民主主義、国力は発展しないのでは。

 ◆科学コミュニティーの戦争協力への反省から発足した学術会議は、その歴史からも、政府が科学技術を使って暴走することをチェックする役割を担っています。やはり菅さんは学術会議が邪魔だと思っているのでしょう。学術会議は基本的に政府のチェック機能ですから。

 ――科学者たちに軍事研究をさせたいのでしょうか。

 ◆大学や研究機関が軍事研究に加わるような方向性を持っているのは事実でしょう。しかし、菅さん自身に、軍事研究への強いこだわりは感じられません。それよりも熱心なのは、携帯電話料金の値下げと、それにリンクしたデジタル庁の新設です。この二つはセット、リンクしたものと考えた方がいいでしょう。値下げを訴えることによって、大衆の支持、世論のバックアップを手に入れて、デジタルを扱う企業や団体に介入していく。これは菅さんが繰り返し使ってきた手法です。

 典型的なのがNHKです。菅さんは総務相時代の2007年に総務省の課長を交代させ、NHK改革の主導権を握りました。さらに受信料の2割値下げをNHKに要求して、大衆の支持を取り付け、職員の高給への批判や番組制作の不祥事などを利用して、会長人事に介入したと報じられました。値下げ要求で世論を味方に付けて、NHKを骨抜きにしたのです。

 菅さんの周囲には警察官僚がたくさんいます。世論を味方に付け、関連企業に介入し、デジタル庁を新設し、非常に効率的に情報を入手していく。スマートフォンの利用などによってデジタル化された大量の個人情報を効率的に収集できるようになれば、フーコーのいう支配がより簡単になるのではないでしょうか。

 実際には監視しなくてもいいのです。監視システムを見せるだけでいい。たとえば見せしめ逮捕です。ツイッターデモを呼びかけた人物を特定してみせる。何かの別件で見せしめ逮捕してみる。方法はいくらでもあります。要するに、チェックしているなと思わせることが重要なのです。

 そうすれば皆が服従する。そんな社会が目前まで来ているのです。


 ■人物略歴

中島岳志(なかじま・たけし)氏

 1975年、大阪府生まれ。京都大大学院博士課程修了。博士(地域研究)。専門は近代日本政治思想、南アジア地域研究。「親鸞と日本主義」「『リベラル保守』宣言」「保守と立憲」など著書多数。 

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2020年12月12日 (土)

寒くなってきたので作業環境をダイニングに移動

 普段の作業部屋は夕日しか当たらない北向きの部屋、PC作業のために昼間も暖房することになると経費がかさむ。

 そこで、PC一式をダイニングテーブルに移動。去年はノートPCを使っていたのでダイニングでも問題はなかったのだが今度はデスクトップPC、同居人からはうっとうしいからなんとかしろとのお達しが出た。

 仕方なく、ワイヤレス接続のキーボードとマウスを購入してしのぐことにした。使ってみるとワイヤレスは便利で、テーブルの上がすっきりするし片付けるのも簡単。

 Windows7時代にワイヤレスマウスを使ったことがあるのだけど、認識できないことがあったり、動作に遅延が感じられたりで使い勝手は良くなかった。今回購入したものはそれと同じロジクール製なのだが、なんの手間もかからず認識され、有線と同じ感覚で操作ができる。

 起動時にバイオスに入れるかどうかも試してみたのだが、Deleteキー連打でちゃんと入れる。これには驚いた。世の中ちゃくちゃくと進歩しているのだね。

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2020年12月 6日 (日)

金沢で“海南チキンライス”

 国立工芸館への道すがら“海南鶏飯”の看板を発見。東南アジアではポピュラーな華僑系の料理なのだが、日本の地方都市でお目にかかるとは。

 入り口でメニューを吟味していると、店の女性が出てきて「奥に席がありますからどうぞ」とのこと。つられて店に入り看板料理のチキンライスを注文。

 鶏肉が柔らかい、3種のソースが添えられていて味の変化も楽しめる。ライスにもいい味が染み込んでいて本場のものより美味しいかも。デザート付きのセットランチが980円はお得だ。

 若い人が頑張って経営しているようだ。応援してあげなくては。

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 お店を紹介した記事はこちら

 お店のインスタグラムはこちら

2020年12月 4日 (金)

国立工芸館で明治期の超絶技巧作品を鑑賞

 国立工芸館が東京から金沢に移転してきた。明治期に超絶技巧を駆使して作られた工芸品のことが以前から気になっていたこともあり、この機会に訪問。ネット予約制になっていて事前にオンラインでチケットを購入した。

 工芸館は旧陸軍第9師団関連施設の建物をレストアして造られている。予約した時刻より早く着いたのだが入れてもらえた。人数制限があるので密ではないのだが、かなりの入館者で盛況だった。

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 展示品は焼き物から漆、七宝、織物と多彩。やはり超絶技巧を駆使した作品に目が行く。日本の工芸の頂点を極めた品々だ。

 鈴木長吉“十二の鷹”Suzukibird

 宮川香山“鳩桜花図高浮彫花瓶”S 

 国立工芸館のサイトはこちら

 明治期の超絶技巧工芸品について解説したものはこちら

 作品写真はネットからの借り物です。

2020年12月 1日 (火)

言葉じゃないのよ政治は、アッ・ハー

 菅首相の国会答弁がすごいことになっている。一部では評判なのだが、国民の大多数はたいして関心がないようだ。

 "言葉”で勝負できない政治家って"権謀術策”で勝負するのかと思いきや、切れ者という印象もない。誰かが言った「壊れたレコード」のような? はてさて、プーチンや習近平相手に「壊れたレコード」氏はこれからどう渡り合うつもりなのだろうか。

 で、コラムニストの小田嶋隆氏へのインタビュー記事をご紹介。この人のコラムは切り口が独特でハットすることが多いのだけど、今回もなるほどといたく感心した。

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小田嶋隆さんが読む首相の「恐怖政治断行」宣言 「小さな部屋の王様」の恫喝

毎日新聞 202011300500

 「説明できることと、できないことってあるんじゃないでしょうか」。これは1026日、NHKの報道番組「ニュースウオッチ9」に出演した際の、菅義偉首相の発言だ。日本学術会議の任命拒否問題を巡り、キャスターから「説明を求める国民の声もある」と振られると語気を強めて反論してみせたのだが、「説明できない」とは一体どういうことなのか。コラムニストの小田嶋隆さんは「一種の恫喝(どうかつ)」と語り、そこに菅政治の本質を見いだす。【金志尚/統合デジタル取材センター】

「『君たちの知らないところで事を進める』と言っているのと一緒」

 ――NHK番組での発言をどう見ていますか。

 ◆その直後に手でパンと机をたたきましたよね。テレビに映っているにもかかわらず、ああいう態度を取ってしまうのは、冷静な人間ではないということがまず言えると思います。

 それと、あの発言は一種の恫喝です。あらゆるものに対して説明責任があり、全て言葉と理性で説明がつくという建前の中で、民主主義や法治主義は成り立っています。しかし、「説明できないことがある」と言うのは「俺たちは君たちの知らないところで事を進めるんだ」と言っているのと一緒で、民主的手続きを踏みにじることに他ならない。これはとんでもない発言です。全国に流れる公共放送で首相が言ったことはもっと特筆すべきでしょう。「俺たちは恐怖政治を断行するよ」と言っちゃったわけですから。図らずもそうした体質が表れたわけです。馬脚を現したと言えます。

 ――国会でも「回答を差し控える」などと説明を拒む場面が目立ちました。

 ◆「人事のことなので差し控える」と言いますが、理屈になっていません。それと、差し控えるというのは、「答えは持っているけれど、教えない」ということですよね。私はとても不思議な言い方だと思います。「それは教えてやんないよ」と上から言っているわけですからね。菅さんは、あれが謙虚な言い方だと思っているんでしょうか。

「言葉の引き出しが少なく、中身がない。浅薄」

 ――学術会議の「偏り」を強調するなど、国会ではパターン化された答弁が多かったです。結果的に質問と全くかみ合わない場面が続出しました。

 ◆「質問がこう来たから、こうずらそう」という戦略に基づいたものではなく、それしか言えない。自分が覚えている限りのことを言っているだけのように映りました。

 学術会議の任命拒否問題に関して、菅さんは「総合的・俯瞰(ふかん)的」という言葉をよく使いますが、そもそも滑稽(こっけい)な話です。総合的・俯瞰的な見地から提言するのが学術会議の役割ですから。政府に大所高所からいろいろ言ってくれるからこそ価値があるのであって、それを政府が「総合的・俯瞰的に判断して任命を拒否する」と言うのは筋違いも甚だしい。学術会議の役割を理解していないに等しい言葉です。

 事実としては、政府に苦言を呈する人を外すことで、学術会議に対してにらみをきかせたかったということだと思いますが、それを言っちゃうとシャレにもならない。だから違う言い方を探っているんでしょうが、「多様性」という言葉をやたらと持ち出すことも含めて、言葉の引き出しが少なく、中身がない。浅薄です。

「女性に優位に立たれると我慢できない本性」

 あと、女性議員とのやり取りも気になりますね。参院予算委では蓮舫さんとの質疑応答で、感情的になってうまくしゃべれなくなっている感じが露骨になっていました。やっぱり女性に優位に立たれるというか、やり込められると我慢できない本性みたいなものも見えます。

 ――官房長官時代は「鉄壁」などと答弁の安定さを評価する声がありました。

 ◆全然、鉄壁とは違うと思います。官房長官の頃は結局、記者クラブという、すごく狭い世界を制圧していただけですよね。(在任した)約8年間、記者をなめていたと思います。記者なんて恫喝すればいいんだと。官房長官というのは、結局、ごく小さな部屋の王様だったと思う。実際、子飼いの記者たちは黙っていたかもしれませんが、総理大臣になると野党の議員は黙っていませんから。それで彼は言葉に詰まってしまっている。

 その一方で、原稿の棒読みではない発言をする度に墓穴を掘っている印象もあります。先日のNHKでの発言もそうですし、報道各社とのグループインタビュー(109日)で飛び出した「(学術会議の会員候補の)名簿を見ていない」という発言もそう。私は、じきに致命的な失言をしてしまうのではないかと感じています。

「言葉を生でしゃべる能力が不足しているのが安倍さんと菅さん」

 ――当意即妙な受け答えや答弁能力の欠如を露呈してしまっていると。

 ◆言葉を生でしゃべる能力というものが政治家には一番不可欠です。例えば英国のボリス・ジョンソン首相。新型コロナウイルス感染で入院しましたが、退院後のスピーチは見事でした。私は彼のことを軽薄なヤツだと思っていましたが、いざとなれば心を打つ演説ができるわけです。

 日本にもそれなりに話せる議員は多いはずですが、その能力が飛び抜けて不足している議員が2人います。(前首相の)安倍晋三さんと菅さんです。安倍さんも前代未聞といっていいほど、言葉の貧しい政治家でした。ところが、菅さんはそれ以上です。

 ――11月の衆参予算委では、秘書官が後ろで答弁書を書いて菅さんに渡す光景も見られました。

 ◆みっともない。よくやりますね、あんなことをね。外交に出たとき、例えば(ロシア大統領の)プーチンさんみたいな人と対峙(たいじ)したときにちゃんとできるのかというのは、すごく心配ですね。外交はごまかしが利かないですからね。プーチンさんは原稿を棒読みする人を露骨にあざ笑うみたいなことをするわけじゃないですか。(ドイツ首相の)メルケルさんなんかは、生の言葉で話すことを大切にしていますが、それに対して菅さんが原稿を読んだりすれば、「何だ?」という顔をするんじゃないでしょうか。

最悪な「私が安倍さんを懐かしがっていること」

 ――安倍さんの後継に誰が就くか分からなかった2年前、小田嶋さんはコラムに「最悪の予想は、私が安倍さんを懐かしがっていることだ」と書きました。今、懐かしいですか。

 ◆そう思っていますね(苦笑)。今さら持ち上げるわけではありませんが、安倍さんは育ちがいいし、あらかじめ政治家として「いいポジション」に座っていますから、人を踏みつけて上まで上り詰めたわけではない。だからこそなのかもしれませんが、あの人の一番まずかったのは身内びいき。彼は今も非を認めていませんが、自分の奥さんや友達を優遇するために不正を働き、公文書まで改ざんさせたと私は思っています。これらは当然許されないことですが、ただ、それは自分の権力を拡大するためとか、いろいろな人間を踏みにじるとか、そういうことでは必ずしもなかった気がしています。

 ところが菅さんの場合、例えばふるさと納税に異を唱えた官僚を更迭しています。あそこまで上り詰めるためにどれだけの人を踏み潰したのかを考えると、おっかなさを感じる。自分にとって邪魔な人間を徹底的に潰す、そういうニヒルな怖さを感じるわけです。いざとなったら、どんな手でも使うという不気味さがある。安倍さんは自分が直接誰かを脅すことはなかったと思うし、そういう度胸もなかったでしょう。でも菅さんは「人は恫喝したら必ず言うことを聞く」とか「敵は必ず潰す」という人間観を持っている。そういう意味では、胆力とか度胸は安倍さんよりずっとあるとは思いますが、それだけにえげつないし、おっかない。

「『インテリを攻撃すれば受けるぞ』という選挙戦術」

 ――改めてですが、学術会議の任命拒否問題についてはどう考えますか。

 ◆これは安倍さんとも通じますが、インテリ嫌いが濃厚にあります。昭和の時代、政治家は東京大出身者が多かった。それが良いとは一概に言えませんが、優秀な官僚がいて、優秀な閣僚がいて、馬力のある総理大臣がいるという構図があったと思います。ところが今は反学歴主義みたいなものが行き過ぎている気がする。「学歴は万能じゃないぞ」という考えまではいいですが、学歴があるヤツは蹴散らせ、となってしまっている。

 ただ、これは菅さん自身がそう思っているだけではなく、「インテリを攻撃すれば受けるぞ」という選挙戦術も背景にあると感じています。インテリと役人をいじめておけば、民衆の支持を得られるという肌感覚を持っているんだと思う。学術会議に手を突っ込んだのも、半分はそういうところが関係しているのではないか。

 国民の中にも「学者は上から目線だ」「学者のくせに偉そうにしやがって」という批判が結構あります。世論調査でも、任命拒否を「問題ではない」と感じている人が5割近くいる。こうした意見に菅さんが救われています。だから学術会議の新会員候補を任命しなかったのは菅さんの問題では当然あるんですが、それを許容している国民の問題でもあります。

おだじま・たかし

 1956年東京都生まれ。食品メーカー勤務などを経て文筆業を開始。「ア・ピース・オブ・警句」「小田嶋隆のコラムの切り口」「日本語を、取り戻す。」など著書多数。新著に10年分のツイートをまとめた「災間の唄」。

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